相模湾は東京都をはじめ、多くの人口を抱える関東の大都市から至近にある。シーズンともなれば多くのアングラーを集め、キハダキャスティングの激戦区として熱い釣りが展開される。
この相模湾をホームグラウンドにキハダキャスティングを楽しんでいるのが椙尾和義さん。長年に渡って通い続ける、椙尾さんならではの相模湾キハダワールドを紹介しよう。
相模湾のキハダキャスティング
▲自らルアーメーカー、サプライズを主宰している椙尾和義さん。サプライズでは相模湾をテストフィールドにしたマグロ、シイラ、カツオ用ルアーを数多くラインナップしている。
椙尾さんにとって相模湾のキハダマグロ(以下、キハダ)、キハダキャスティングとは?
キハダは相模湾に限らず、自分のメインターゲットの1つですが、なかでも相模湾のキハダに限るなら、身近に楽しめる大型ターゲットという存在ですね。
以前は夏がシーズンの中心でしたが、最近は年間通して楽しめるようになった感がありますね。
相模湾はここ数年、あまり状況が良くなかったんですが、2024年は以前のシーズン開幕時のように好調です。
湾内にカタクチイワシがとても多くて、ナブラもあって。とくにスタートは絶好調でしたね。
相模湾はキハダのフィールドとしては激戦区だと思います。
遊漁船の数が多いですし、加えて土日ともなればプレジャーボートも増えます。キハダを狙うエサ釣りの船も多い。
周辺の人口も多いので、近くて行きやすいっていう理由もあるんじゃないですかね。
自分にとっても、相模湾は地元ですが難しさもあって、1本のキハダの重みが違うと言いますか、1本獲ったときの嬉しさは大きいですね。
本当に岸が見えるような近場でのヒットも多いですし、シイラメインでの出船でヒットすることも多い。こうしたシイラ船でのヒットが多いのも相模湾の特徴だと思います。
▲相模湾の平均サイズ、20kg強のキハダを仕留めた椙尾さん。短時間だけ動いた潮、それにより生まれた潮目、そこで生じた小さなトビウオを追うキハダのナブラを逃さず、結果につなげた。
相模湾のキハダ、想定サイズはどのぐらい?
20kg前後、15~25kgくらいが中心だと思います。30kgくらいまではよく見ますし、たまにドカンと50kgクラスも出る。それはそれで面白いですよね。
最大クラスですか?自分では52kgまではキャッチしていますが、ルアーではたまにですが、エサ釣りまで含めると70kgクラスまではよくキャッチされますよ。
▲平塚の庄三郎丸では仕立出船でキハダキャスティングが楽しめる。また、相模湾ならではとも言える、シイラ乗合に乗ってキハダのチャンスを狙う、というパターンもあり。
乗合船と仕立船、それぞれの特徴は?
相模湾では乗合船と仕立船、2つの出船形態を選択できる。
乗合船に関しては、気軽さが魅力ですね。空いていれば明日休みだから行こう、という感じで1人でも行けます。
インスタとかフェイスブックとかで、明日はあと何人空いています、って載せている船が多いですしね。以前よりは予約も取りやすいのかなと思います。
シーズンが長くなって分散している傾向がありますし、クロマグロの時期とも重なっていますからね。
仕立船は仲間を5、6人集めて、ワイワイ気兼ねなく楽しめるのがいいところだと思います。
以前は出船エリアごとに乗合中心、仕立中心という傾向がありましたが、近年はそれが薄まっているイメージです。
ちょっと仕立てるには人数が足りない、3人で予約したけれど、3人では出船が難しい。あとは船長が集めるので集まったら乗合でいいよ、という流れでの出船はけっこう多いと思います。
乗合船ならではの注意点は?
乗合船では乗船する人数が多いのが基本になります。
釣り座はローテーションすることが多いと思いますが、一番の注意点はやはりキャスト時のトラブルですね。
振りかぶりすぎてロッドをぶつけて人のロッドを折っちゃったとか、最悪、人を釣っちゃったとか。
オーバーヘッドキャストは禁止にはしていなくても、フックはバーブレスに、という船は多いと思います。
もちろん刺さないのが1番です。バーブレスにしたって痛くないわけじゃないですからね。
▲アンダーハンドキャストしか出来ない釣り座もある。さまざまなキャスト法を身に着けておくことはとても重要だ。
トラブルを防止するためにはキャスト練習が大事かなと思います。
ただ、練習するにしてもフラットデッキの船でGTやヒラマサを釣るときのように、タラシを長くして投げたり、船の舷から舷までを歩くように投げたりする練習ばかりしてもダメです。より実戦的な練習をしてほしいですね。
とくに乗合船の場合は、いろいろな釣り座で釣ることになります。タラシを短くして、振りかぶらないキャスティングをできるようにしておくことが大切です。
アンダーハンドキャストの習得も必要です。理想を言えば、左右の利き腕を逆にした、逆手でのキャストも出来たらいいですけどね。
すべての釣り座でキャストできるようにしておきたいですね。
▲トリの動きは一定ではない。種類も同様だ。トリの動きからヒットチャンスを引き出せるようになれば一人前のキハダアングラー!?
相模湾キハダキャスティングの基本的なアプローチパターン
キハダに対するアプローチは、大きくはナブラ撃ちと誘い出し、2つがある。相模湾では両方楽しめる?
相模湾ではしっかりしたベイトが多いため、ナブラ撃ちが中心になります。
カタクチイワシをメインに、サバっ子、マイワシ、トビウオといったベイトの種類の見極めと、トリヤマの見方などが重要になってきますね。
そういう要素を見極めるようにしていかないと、いざ船が全開でトリヤマに向かって行ったときにどう対応していいのかが分からない。
船長はナブラに対していいところに船をつけてくれますけど、そこから先は釣り人のスキルが試されるところ。
船長は『投げろっ!』って言いますけど、釣り人としては何をどこにどう投げるかってことが重要になると思います。
ただ、すぐに覚えられるほど簡単ではないですし、必ず正解があるわけでもありません。いろいろ自身で経験を積んでいくしかない、ってところですね。
たとえばイワシダンゴ(ハミ、ベイトボール)を狙う場合。皆さん投げるんですけど、ただ投げれば釣れる、ということはほとんどありません。
イワシダンゴはキハダやカツオに追われて浮いたり沈んだりするんですが、浮いたときにしかキハダはルアーには喰って来ないんです。
持ち上げられたイワシの群れがバシャバシャってなって水面より上に行けません、ってならないと喰ってこない。
イワシダンゴが球体だとします。よく見られるのが、みなさん球体の半分より手前に投げちゃうんです。
球体の中を通すようにして投げないとなかなか喰ってこないので、ルアーを落とす位置、通すコースが重要なんです。
▲ナブラを前にどのルアーをセットした、どのタックルを握るか?このときに勝負は決している、ということも少なくはない。
今年はイワシもキハダも多いので、これだ!というのが分かりにくい状況もあります。
うろうろしていたり、ただ泳いでいたりするだけ、みたいなキハダもいます。
もちろんある程度は分かっても、ナブラの近くに行ってみなければわからないことも多い。
トリヤマを見て、ベイトの種類がある程度分かれば、投げるルアーをあらかじめ選べます。シンキングなのか、フローティングがいいのか、っていうのもある程度は分かります。
たとえば、イワシダンゴを狙う場合、イワシダンゴだけならフローティングをキャストできますが、トリが多かったらトリに喰われたり、ラインが引っ掛かったりするので、フローティングは投げられない、ということもあります。
いずれにしても船長に『投げて!』って言われてから選んでいては遅すぎます。
相模湾では誘い出しはどのような状況でやることが多い?
ナブラが出たあとに、ちょっと沈んじゃったので誘い出しをやってみよう、という感じが多いと思います。
他のフィールドでは潮目をずっと流しながら投げ続けるということは、よくあることだと思います。
クロマグロ狙いでも潮目や湧昇流が沸きやすいところで誘い出しを続ける、ということは多いですが、相模湾の場合は長い時間かけて誘い出ししたり、待ったりすることは少ないですね。
基本的にはナブラを探す、という感じが大半だと思いますよ。
▲相模湾ではじっくりと誘い出す、ということは少ない。ナブラが沈んでしまったがもしかしたら、の可能性に賭けて行うことが多い、と椙尾さん。
ナブラ撃ち、誘い出しを問わず、状況判断は経験が必要。だとしても、なるべく近道を行きたいというのが釣り人だ。
分かってくれるお客さんには言うんですけど、相模湾のキハダキャスティングの腕を磨くならシイラ船にいっぱい乗った方がいいよ、ってことは伝えています。
シイラ船ではキハダ船よりも多くキャストしますし、キャストの正確性も求められます。
シイラで使う2号タックルで狙ったところにしっかりキャスト出来なければ、より正確性に劣るキハダタックルでは狙ったところに投げることはできません。ヘビーなタックルになるとどうしてもキャスト精度は落ちますからね。
それにシイラは潮目、ナブラ、漂流物、パヤオ、ふらつき、潮色の変化などなど、いろんな状況下での釣りが求められます。
観察力も身につきますし、ナブラの種類の見分け方を覚えるにもタメになることしかありません。
おろそかにするにはもったいないターゲットです。
キハダ船では正直なところ、それほど勉強にならないんです。いきなり本番です。1日中走りっぱなしが基本ですし、キャストチャンスは1日を通してもそれほど多くはありません。
シイラ船でいろいろ覚えてキハダをやる、っていうのが相模湾ではベストかな、と思います。
学校の授業でもそうじゃないですか、足し算とか引き算とか、そういう基礎的なものがないと、掛け算とか因数分解みたいなことやっても分からない。言葉も同じ。漢字を書けても読めてもひらがな読めなかったら意味ないじゃないですか。
上達するにも階段があって、それを順番に昇ったほうが早いと思いますよ。
▲最低でも3セット用意する、という椙尾さん。状況によってはロッド、リールの予備も含め、さらに多くなることも珍しくはない。
相模湾キハダキャスティングタックルのセッティング例
椙尾さん流のタックルセッティングと使い分けは?
メインタックルは3号タックルと4号タックルの2本。ベイトの種類や状況によって使い分けていくのが基本ですね。
ベイトサイズが大きかったり、誘い出しをやる場合には6号タックルを握ることもあります。キハダのサイズがいいときも6号タックル。
ただ、風が強いときには魚のサイズが大きくても4号タックルを選んだりします。ラインが受ける抵抗が大きくてルアーが流されたりしますからね。飛距離が欲しいときも4号タックルを使いますね。
基本的にフローティングとシンキングに分けてセットしておきます。ルアーサイズはシンキングだったら12~13cm、フローティングだったら15~18cmを目安にして用意。
その日、その時のパターンとか、トリの多い少ないとか雰囲気とか、風の強さや向き、潮色の感じとかで変えていくイメージです。
▲相模湾に限らず、キハダキャスティング用メインラインにはアバニ キャスティングPE SMP [スーパーマックスパワー]をセレクトすることが多い、と椙尾さん。
相模湾キハダキャスティング用ライン
相模湾でキハダキャスティング用に使っているメインラインは?
アバニ キャスティングPE マックスパワーX8を使うこともありますが、基本的にはアバニ キャスティングPE SMP [スーパーマックスパワー] (以下、SMP)を使っています。強さと耐久性を求めた結果です。
相模湾では乗合船で釣ることも多いので、あまり時間を掛けてファイトをしていると他の人の時間がなくなってしまう。だから、なるべく早くキャッチしたいという気持ちがあります。これはあくまで自分の考えですけどね。
早くあげたらまだ他の人にもチャンスもあるかもしれないし、もしかしたら自分にももう1回チャンスがあるかもしれない。
もちろん、強引にやるっていう意味ではないんですが、ハイテンションの負荷をかけながらファイトを展開できるラインという面で、SMPはとてもいいラインだと思っています。
長時間ファイトになることが多いクロマグロ狙いのときはアバニ キャスティングPE Si-X X8を使っていますが、相模湾に限らずキハダ狙いの場合は、SMPを使っています。
キハダとのやり取りは長くても20分くらいですから、SMPの特性が活きると思っています。
SMPは柔らかいのでトリッキーなキャストにも対応しやすいですしね。色落ちも全然しない、ってくらいに変わらないところもいい。
▲少しでも気になれば、すぐにラインシステムを組み直す。システムを組みながらも目は洋上に。出船すれば常に臨戦態勢だ。
耐摩耗性という意味でもSMPは強いな、と思ったことがあります。
そのときはクロマグロだったんですが、自分に125kg、同船者にも60~70kgの魚がダブルヒットしてオマツリしちゃったんです。
ライン同士が3周していて、もうダメかなと思ったんですけど、ほどきながらゆっくりやっていたらなんとかなってキャッチまでいけました。そのときは8号のSMPでした。
また、ワンシーズンを通してずっと同じラインを使い続けて、キハダを何本も釣ったときもありましたが、全然大丈夫でした。
基本的には300mを巻き込んでいますが、釣行ごとにラインシステムを組み直すので、短くて1~2m、いつもは4~5mくらい先端をカットして結び直すなど、ケアはしていましたけどね。
とくに魚を釣ったときは先端にヨレが出ていることが多いので、そこをカバーできるだけカットします。
▲ショックリーダーはオーシャンレコードショックリーダーを使用。強さはもちろん、ノットの組みやすさ、安定感も高評価の理由だ。
相模湾キハダキャスティング用ショックリーダー
ショックリーダーは何を使用している?
リーダーはオーシャンレコードショックリーダーを使っています。キャスティング用リーダーだけあって、あらゆる面でとても使いやすい。強さも十分です。
長さはいつも投げる位置までタラシを出して、指がシステムのあたりに引っかかるぐらいでセットしています。
ラインシステムはFGノット。リーダーと接続金具との結びはラーノット。
SMPとオーシャンレコードショックリーダーは相性も抜群だと思います。
▲ロッドの強さに合わせてドラグの初期設定値を決める、という椙尾さん。慣れてしまっている現在は直引きの感覚でセットすることが多い。
ドラグのセッティング、ファイトの考え方
ラインを考慮したドラグセッティング、ファイトのコツは?
ドラグの初期設定はラインではなく、ロッドに合わせてセットする感じで決めています。
ラインの引っ張り強度は十分過ぎるくらいにあるので、ライン強度に合わせてやったら、ロッドがぶち曲がりすぎちゃったりするかな、と思っています。使用するロッドで一番リフト力が出るところまで曲げるのがコツ。
船は引っかけるところいっぱいあるので、どこかに引っかけてリフトする姿勢でしっかり曲げたときに、ドラグがチリチリと出るか出ないか、にセットします。
曲がりの頂点がどこになるかはロッドによって多少違うんですが、バットから2番目のガイド周辺とかが多いですね。しっかりロッドが曲がる前にラインが出ちゃうと、せっかくいいロッドを使っていても意味がないですからね。
最初はこうやってセットするのをおすすめします。
ただ、自分の場合はさんざんやったので、リーダーを持って直接引き出して設定しています。
使うタックルにもよりますが、キハダの場合は6kgから10kgぐらいだと思いますよ。
▲ロッドをしっかり立てて曲げ、キハダマグロにプレッシャーを与え続ける。この状態でドラグがチリチリと鳴ってラインが出るか出ないか、ここが基本的なセッティングだ。
キハダの場合、掛けたあとドラグはあまりいじらないですね。サイズによって少し負荷を上下させるくらい。
あまりかけすぎると口切れしちゃうかなとかいう気持ちもあるので。締めても緩めてもドラグノブを1/4回転するくらいです。
走られ過ぎている、ラインが出過ぎていると思ったら少し締めます。あまりにずっと走らせると、魚に主導権を与えすぎてしまう気がするので、避けるようにしています。
反対にあまり強すぎるとフックやスプリットリングが伸びてしまうリスクがあると思います。
とくにヘビーなタックルで小さいルアーを使わないと喰わないとき、つまり小さいフックを使わなければいけない、というときは少し弱めのセッティングにしたりしますね。
ファイトの基本やドラグの設定については、下記でも解説している。参考にしてほしい。
椙尾和義さんの相模湾キハダキャスティングタックル
▲ロッド&リールはシマノ製、ラインはバリバス製、ルアーはサプライズ&シマノ製と、気持ちよく統一されている椙尾さんのキハダタックル。
椙尾和義さんの相模湾キハダキャスティングタックルは下記のセットとなっている。
タックルセット1
タックル | 詳細 |
---|---|
ロッド | シマノ/ オシアプラッガー ライトコンセプトS83L |
リール | シマノ/ステラSW 8000HG |
メインライン | 【バリバス】 アバニ キャスティングPE マックスパワーX8 3号 |
リーダー | 【バリバス】 オーシャンレコード ショックリーダー 60lb |
ルアー | ブルージャック50gノーマル&ショート、スギペンシンキング110mmヘビー42g、スギペンフローティング130mm、オシア ペンシル別注平政130F、オシア ヘッドディップ140Fフラッシュブースト |
タックルセット2
タックル | 詳細 |
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ロッド | シマノ/ オシアプラッガー ライトコンセプトS83L |
リール | シマノ/ステラSW 8000HG |
メインライン | 【バリバス】 アバニ キャスティングPE SMP [スーパーマックスパワー] 4号 |
リーダー | 【バリバス】 オーシャンレコード ショックリーダー 80lb |
ルアー | スギペンフローティング160mm、スギポップ150mm、オシア ヘッドディップ140F・160Fフラッシュブースト |
タックルセット3
タックル | 詳細 |
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ロッド | シマノ/ オシアプラッガー フレックスドライブS83MH |
リール | シマノ/ステラSW14000XG |
メインライン | 【バリバス】 アバニ キャスティングPE SMP [スーパーマックスパワー] 6号 |
リーダー | 【バリバス】 オーシャンレコード ショックリーダー 100lb |
ルアー | スギペン185mm、スギポップスリム180mm、オシア 別注平政190Fフラッシュブースト、オシア ヘッドディップ175Fフラッシュブースト |
▲ベイトの種類、サイズなど、ルアーセレクトの基準はさまざまだが、常にシンキングとフローティング、2種類のルアーを即座にキャストできる体制を整えておくことが大切だ。