チャーマス北村秀行が挑む、南伊豆沖のマグロジギング

近年、主にトンボマグロ(ビンナガ)を狙う「トンジキ」が三重沖を中心として大流行。名古屋や大阪などの大都市圏から日帰りで楽しめることもあって、シーズン中の週末ともなれば船は予約が取れないほどの人気ぶりだ。

狙いはその名の由来であるトンボマグロにとどまらず、キハダやメバチ、さらに海域によっては、そして漁獲枠があればクロマグロもターゲット。もはやトンジキの枠を超え、“マグロジギング”と呼ぶほうがふさわしい状況といえよう。

そんなマグロジギングは、もちろん関東エリアでも楽しめる。なかでもいま最もホットな海域として注目を集めるのが、東京や神奈川、埼玉といった首都圏から日帰り釣行が可能な「伊豆沖」だ。

2025年2月下旬。シーズンインしたばかりの伊豆沖のマグロジギングに、“チャーマス”こと北村秀行氏が挑む!

北村 秀行(きたむら・ひでゆき)

1946年(昭和21年)、東京都世田谷生まれ。多摩川で釣りを覚え、アルバイトをしては釣具を買い、伊豆や伊豆諸島、外房などを釣り歩く。釣りがしたいがために夜の仕事を選び、新宿二丁目に釣り人が集う伝説のパブ「ソッカイ・チャー」を経営。“チャーのマスター”ゆえ、“チャーマス”と呼ばれる。

国内におけるオフショアジギングは、北村がオーストラリアのタスマニアで漁師が行うジギングを見て、それを日本に持ち込んだことが始まり。

ソルトルアーの第一人者であり、レジェンドとして慕われる北村だが、釣りのジャンルは幅広く、バスはもちろん、トラウトも渓流、湖、フライ、テンカラ、磯、海のエサ釣りと様々な釣りに精通。フィッシングクラブ『CLUB BIG ONE’S』総大将。VARIVASフィールドスタッフ。

目次

首都圏から日帰り釣行可能なツナフィールド

▲三重沖をはじめ、今回の伊豆沖でも、大都市圏から日帰りでこんな大型マグロが誰でも狙える。伊豆沖のマグロジギングは、ゴールデンウイーク頃までがシーズンだ。

大型マグロ類をターゲットとしたジギングといえば、かつては沖縄県久米島のキハダに代表されるように、主に南方海域へ遠征して狙う、というイメージが強かった。

だが近年は、三重沖を中心として、釣り人に“トンボ”と呼ばれるビンナガ(ビンチョウとも)をメインターゲットとして狙う“トンジギ”が流行。誰でも手軽にマグロ類が狙えるようになり、しかも三重は名古屋や大阪など近隣の大都市圏から日帰りで釣行も可能とあって、爆発的に人気が高まった。

トンボを狙うジギングゆえに、略して“トンジギ”であるが、狙いはそのトンボに留まらず、キハダやメバチ、漁獲枠があるようであれば、エリアによってはクロマグロも狙える。

マグロのサイズは、トンボは20kgオーバー、キハダやメバチは30〜40kgやそれ以上、クロマグロに至っては100kgオーバーも夢ではない。

このトンジギ、中部・関西エリアでは三重沖がメインフィールドになっているが、関東エリアもここ数年、にわかに注目されている。そのひとつが、今回ご紹介する伊豆沖だ。

釣行は2025年2月下旬。船は南伊豆・手石港の寿広丸だ。港は伊豆半島のほぼ先端ゆえ、首都圏から十分に日帰りで楽しめるエリアである。今回は2日間の日程でチャレンジする。

アングラーは、お馴染み“チャーマス”こと北村秀行。ターゲットは、トンボ(北村はトンボ=ビンナガのことをビンチョウと呼ぶので、以下ビンチョウとする)はもちろんのこと、とくに今回は大型キハダをメインで狙っていく。そのため、ここではトンジギとはあえて呼ばず、「マグロジギング」として話を進めて行きたい。

北村は、前回のYouTube撮影でのチャレンジに続き、今回が2回目の伊豆沖マグロジギングである。

▲港から航程約3時間。ゆっくりと仮眠して、ポイントに到着。期待は高まり、緊張感はマックス。いよいよだ。

▲対マグロ類のファイトは走らせることが前提ゆえ、北村は必ずドラグチェッカーを使って強すぎず弱すぎないドラグ値に正確にセットする。

ターゲットは明確に。タックルはバランスが大事

午前4時、出船。ポイントを目指す。航程はゆっくりと走って約3時間。エアコンの効いたキャビンで仮眠できるのもありがたい。夜討ち朝駆けのアングラーには貴重な時間だ。

午前7時30分、竿入れ。いよいよ釣り開始。このエリアは協定により竿入れと納竿の時間が決まっている。

三俣隆徳船長

水深223m。120〜60mを探ってください

三俣隆徳船長からアナウンスがある。

しばらくすると、

三俣隆徳船長

反応! 反応! 反応!!

一気に緊張感が漂う。水深100m以上のエリアの中層を、ただひたすらにシャクっていくという非常に単調な作業になりやすいマグロジギングだけに、こういったアナウンスがあるとアングラーの気持ちもグッと引き締まる。

船の流し方は、三重沖ではドテラ流しが主流であるが、ここ伊豆沖はスパンカーを立てて行う縦釣りがメイン。それゆえ、伊豆沖では使用するジグも比較的軽めで、ラインスラックもドテラ流しのようには出にくいので、ジグの位置もイメージしやすい。

そういった意味でも、伊豆沖のマグロジギングは、これからこの釣りにチャレンジしたいというアングラーにはとくにおすすめといえよう。

さて、そんな伊豆沖のマグロジギングのタックルだ。

チャーマス

最初に言っておきたいのは、モンスターのことばかり考えていると、大変なことになるよ、ということ。

確かにモンスターはいるけど、(漁獲)枠もあるし、それを想定してタックルを組んでいたら、キハダやビンチョウを快適に狙うことはできない。

狙いをどこに絞ってタックルを選ぶか。それが重要だね。

モンスターとは、100〜300kgオーバーという巨大クロマグロのことだ。

今回、北村がメインターゲットとしているのが、30〜50kgのキハダとビンチョウ。それを想定したタックルは、メインとなるジギング用が3セット。状況次第ではキャスティングで狙うこともあるのでキャスティング用として2セット用意した。

▲タックルはバランスが大事、と北村。大型キハダ&ビンチョウを想定して用意したタックルは、ジギング3セット、キャスティング2セットの計5セット。出船前にすべて組んでおく。メインのジギングタックルの中でも、北村はスピニングを主に使用した。

チャーマス北村秀行・ジギングメインタックル

チャーマス北村秀行氏のジギングメインタックルをご紹介する。

タックル詳細
ロッドテイルウォーク/
マスタービルドジギングS63L、スプリントスティックSSD70M、ゴーシャンC64ML
リールテイルウォーク/
ステルス14000
ライン【バリバス】
アバニ ジギング10×10マックスパワーPE X9 4号、5号
リーダー【バリバス】
アバニ ショックリーダー SMP ナイロン 100lb
ジグスミス/
CB.ナガマサ230g、250g、誠ジグ250g

▲ジグは230〜250gをメインで使用。「軽いジグを一度使ってしまうと重いジグに戻すのが大変だから、水深の2倍の重さを基準として、長めでアピール性を高めたロング系のジグに実績が高いね」と北村。カラーは、シルバー系のブルー、イワシ、グリーンがかったブルーをメインに、ピンクなど。グローのアリ・ナシでも使い分けた。

▲大型キハダのベイトとなっているのがこのサバ。ビンチョウはカタクチイワシやウルメイワシ等、キハダよりは小型のベイトだ。

ラインは、絶対的な信頼を置くバリバス・アバニ ジギング10×10マックスパワーPE X9。これを、リールのスプールめいいっぱい巻いておく(北村はテイルウォーク・ステルス14000番に、4号500m、5号400m巻いた)。リーダーはバリバス・アバニ ショックリーダー SMP ナイロンの100lbだ。

チャーマス

この釣りは、ずーっと辛抱して、ずーっとやらなきゃならない。船長がいい反応ありますよ、と言っても必ず食うわけではない。

もちろん、いきなりガツンと来ることもある。

でも、基本的にはいつ食って来るのか分からないから、魚がいると信じて、船長のことを信用して、とにかく集中力を切らさずに、ジグをアクションさせ続けることが大切だね。

持参したタックルが重く、ラインの号数やジグのウエイトといったセッティングがヘビーでは何時間もシャクり続けられない。逆にライト過ぎては、魚を掛けたとしても獲れなくなる可能性が上がってしまうかもしれない。

乗合船では他のアングラーもいることも考えれば、のんびり時間をかけてファイトすることも難しい。タックルは、バランスが大切なのだ。

ちなみに、三俣船長おすすめのセッティングは、想定するキハダやビンチョウが30〜50kgの場合、メインラインのPEは4号、リーダーは80〜100lb。キハダが50〜60kgの場合は、PEは5号、リーダーは110〜120lbという組み合わせ。この海域でのキハダの最大サイズ(70〜80kg)を本気で狙う場合は、PEは6号、リーダーは130lbが必要だ。

ジグは300gのロング系を中心に、250〜500gまで持参。ジグカラーは、シルバー系のブルーやパープル、ケイムラ系に実績が高いという。ぜひ参考にしていただきたい。

さて、北村のノットは、ビミニツイストでダブルラインを作り、いったん輪を切って撚りを入れる。それをオルブライトノットで結束し、最後はエンドノットで完成だ。

チャーマス

ノットで重要なのは、最後にその部分を指で触り、結びコブが小さくできていることを確認すること。

さらに、引っ掛かりや必要以上の出っ張りがないかもチェックする。

こうすることで、ガイド抜けがよくなり、リーダーを巻き取った際にガイドでの引っ掛かりを軽減し、結び目がスムーズに出入りするようになる。

これは、魚を掛けて最後の詰めの際に非常に重要となってくる。とくに魚が大きくなればなるほど、このちょっとした引っ掛かりがあるなしで運命を大きく左右することがある。

経験豊富な北村らしい、ラインやノットに対する気遣いとコダワリである。

▲PEラインとリーダーの接続は、北村はメインラインがナイロンの時代からビミニツイスト&オルブライトノット、そして締めはエンドノット。それらのノットを何千回、何万回と組んでと長く付き合い、長所も短所もすべて理解している。

強烈なファーストヒット

三俣隆徳船長

水深140m。60〜70mぐらいまで狙ってください。

上のほうの反応はキハダ。ボトムから狙うと、マハタやハチビキ、ハガツオ、メダイなどもヒットします。

とアナウンスがある。海底は駆け上がっている。

3流し目。

三俣隆徳船長

水深228m。130〜70mを探ってください。

と三俣船長。

その一投目だった。90mラインを意識して、その周辺を集中的に探っていた北村に、強烈なアタリ。いきなりもの凄い勢いでラインを出され、魚は沖へ沖へと向かっていく。それに合わせて北村は船の中を移動し、船長も船を操作する。

スプールのラインはみるみるなくなっていく。

三俣隆徳船長

キハダは浅い方へ走ることが多いけど、この魚は沖へ沖へと行くから、おそらくクロマグロだね。しかも、モンスター。相当デカいよ。

と三俣船長。

▲圧倒的な重量感とスピード感。止まらないライン。「こりゃデケぇよ。キハダやビンチョウじゃないな……」

北村は必死に耐えるも、ほぼ船を一周してラインが残り50mとなったとき、テンションが抜けた。ラインブレイクであった。

▲船長が船で追ってくれるも、止まらないし追いつけない。450m出されてブレイクしてしまった。PE4号の相手ではない。クロマグロの漁獲枠があれば、それなりのタックルで挑めるのだが……。

チャーマス

500m巻いていたけど、450mも出されちゃったよ。

これだけ出されてこれだけのスピードで走られては、水圧で切れちゃうよね。魚が魚だけに、4号ではさすがに太刀打ちできない。

それより、この状況でラインがよく持ったよ。やっぱりバリバスの糸は強いよね。

同じものを長く使い続けることの意味

北村はバリバスの糸に絶対的な信頼を寄せる。そんな北村とバリバスの付き合いは、どのようにして始まったのだろう?

チャーマス

テスター契約とか商品の提供を受けていたわけではなく、これはよさそうだな、と思って自分で使い始めたのが最初だね。

と北村。その際、最も重要なポイントとなったことがひとつあるという。

チャーマス

ポンドテスト。糸の強さがちゃんと明記してある。これなら信頼できるぞ、と。

そして、そのままバリバスの糸を使い続けて30年以上。

もちろん相性はあるけど、一緒に商品を開発するなど、お互いに切磋琢磨してきた経緯があるから、愛着があるし、信用もある。

そうやって、ずーっと同じものを使い続けていると、いいところも悪いところも分かってくるわけよ。

何事にも完璧なものはない。当然、プラスとマイナスがある。自分にとってマイナスとなりそうな面とどう付き合うか。同じものと長く付き合うからこそ見えてくるものがある。

チャーマス

凄い滑りのいいPEラインが出たときは、しっかりとノットを組んだつもりでも、抜けてしまうことがあった。

だけど、それは締め込む作業をこれまでとは違うことを行うことで、解決した。そうやって、一つひとつ克服して使いこなしてきた。

自分の技術でカバーするんだよ。

よく、そういうときに商品が悪いという人がいるけど、それはモノが悪いんじゃない。自分のレベルを上げるチャンスととらえたほうが成長できる。

アングラーがレベルアップするのはそういうときだ。

チャーマス

本当にBIG ONEを狙いたい、獲りたいんだったら、信用できる道具を選ばないとダメだね。

それは、その製品はもちろんのこと、それを作っている会社についても同じ。

だから北村は、バリバスのラインもそうだが、ロッドとリールはテイルウォークのものを使い続け、そしてとことん使い込む。

チャーマス

竿は、手首で小技を使えるようなものがいいね。

時代の流れもあって、竿も糸もジグもリールもみんな変わってしまうけれど、そのなかでも大事なのは、ハリとジグと糸とリーダーのバランス。

糸はタックルとは違うんだよ。どちらかといえば、消耗品のひとつ。消耗品なんだけど、凄く大事。

ハリもね。釣りたいのだったら、大きい魚を獲るぞという意識と、人よりも場数を踏んで、糸とハリに気を遣え!

▲PEラインは絶対的な信頼を置く、バリバス・アバニジギングマックスパワーX9。4号をメインで使用した。「このPEラインはとにかく水キレがいい。だからジグのフォールスピードも速いし、シャクっているときの情報量も多い。これは釣り人にとっては凄い有利だね」と北村。リーダーはナイロンのバリバス・ショックリーダーSMP100lb。「本当にBIG ONEを狙いたい、獲りたいんだったら、信用できる道具を選ばないとダメだね」。北村とバリバスとの付き合いは30年以上だ。

▲どんなに竿やリールが、そして釣り人の腕が優れていても、ハリ先が甘く掛からなければ魚は釣れない。「釣りたいのだったら、糸とハリに気を遣え!」

分かってはいるけど、悩まずにはいられない。

午前8時50分。満潮。

チャーマス

潮が下げに変わって、潮色も変わった。

グリーンがかった色から、ディープブルーになったね。透明度が影響しているのかもしれないね。

これを機に同船者に何度かヒットがあるが、すべてバラシ……。

チャーマス

いまアタっているジグの色は、グリーン系やグローが入ったものだね。これがいいのかな……?

悩む北村。

チャーマス

悩んだらダメだよね。よかったためしがない。

それと同じ色を使ったとて、釣れるとも限らない。分かってはいるけど、悩まずにはいられない。釣り人とは、そういう生き物なのだ。

そしてこの日、結局北村はその色は使わなかった。答えが出ないまま北村は納竿を迎える。自分の釣りを貫き通したのだ。

課題は翌日に持ち越された。

▲出船前。前日の釣りの状況から海図をチェックし、その日の釣りのイメージを組み立てる北村。船の魚探を見るのではなく、現場に海図を持ち込み、イメージを膨らませる。ジギングはイマジネーションの釣り。だからおもしろい。これほどまでに海と真剣に向き合うアングラーっているだろうか……。

30mごとのホットスポット

二日目。

三俣隆徳船長

潮は1.2〜1.8ノット。西からの潮ですね。水深164m。120〜60mを探ってください。

三俣船長は細かくアナウンスしてくれる。こういった情報はアングラーにとっては本当にありがたい。

とはいえ、今回のようなマグロジギング(トンジギ)は、平たく言ってしまえば、ただひたすらに中層をシャクり続ける釣りゆえ、モチベーションを保ちにくい。

実際、船長が120〜60mを探ってくださいとアナウンスしてくれても、その幅は60mもある。しかも、釣り人はジグを120mキッチリに沈めるわけではなく、だいたいそれより少し深く沈めるし、上も10mぐらいは余分にシャクる。

つまり、合計80mもジグをシャクることになる。そのなかで、マグロに同船者のジグではなく、自分のジグを見つけてもらい、ヒットさせなければばならないわけだ。

それは、北村も言う。

チャーマス

パヤオがあったり、海底からシャクってくださいなど、何か目標となるものがあれば気持ちも保っていられるが、ただだだっ広い大海原で中層をシャクり続けることは、釣り人としては本当にこれで釣れるのだろうか……となる。

それは、俺でも正直不安。

北村いわく「これは“地獄の釣り”だよ」。

では、このマグロジギングにおいて、自らのモチベーションを保つために何かよい策はないのだろうか? 北村に聞いてみた。

チャーマス

マグロは30mごとがホットスポットになっていることが多い。

だから、その周辺はとくに気を引き締めて探ったほうがいい。

とのこと。それはどういうことなのだろうか?

チャーマス

30mごと、というのは、たとえば90m、60mといった水深。そのあたりの水深をマグロは回遊していることが多い。

いわば、ホットスポットになっているんだ。

30mごと、といったように何か指標があれば、そこをとくに意識することで気持ちを保ちやすくなる。気持ちを保つことができれば、それだけヒット率も高まるというわけだ。

▲何も目標物がない中層をひたすらシャクリ続けるマグロジギング。“30mごと”という指標を意識することで、モチベーションを保ちやすくなる。ちなみに、三俣船長おすすめのシャクリ方は、「マグロジャーク」と呼ばれるもの。10回ほど高速巻きして止めてから、ジグを横に向けて間を取るというもの。これを繰り返す。お試しを!

▲前日、ジグセレクトで迷った北村。だが結局行き着いたのは、自分の釣りを、そして経験を信じてセレクトした、グリーン系でもグロー入りでもないオールシルバーの250gだった。自信を持ってセットする。その表情がそれを物語る。

釣りは答えがないからやめられない

「反応!」「中層にマグロの反応!」といったように、三俣船長からはこまめにアナウンスがある。魚はいる。だが、アングラーは沈黙を保ったままだった。あっという間に午前9時。満潮は午前9時26分。上げ止まり前で潮が変わり始めた。

潮が下げになってアタるか……と期待するも、何事もなくただ時間だけが過ぎていく。そろそろ納竿の時間を迎えようとしていた。

そのときだった。

チャーマス

来たよ!

北村の声が響いた。ロッドが大きくしなり、ドラグも出ていくが、“あの”重量感とスピード感ではない。まる二日シャクり続けての、待望の本命だ。

チャーマス

90mからのチョンチョンシャクリで、80〜70mぐらいでヒットしたよ。

ジグは、自分の釣りを、そして経験を信じてセレクトした、グリーン系でもグロー入りでもないオールシルバーの250g。

もちろん、ロッドもリールもPEラインもリーダーも、そしてノットもすべてその性能を知り尽くし、信頼し切っているものばかり。だからこそ、安心してファイトを行うことができる。北村はスルスルと魚を寄せ、青白い魚体が円を描くのも見えた。ビンチョウだ。

リーダーが入る。さあ、いよいよネットイン! かと思いきや、竿先はジグの重みだけがかかっている状態となってしまった……。

▲「来たよ!」北村の声が響く。ファーストランはあったものの、魚はちゃんと止まった。狙いのサイズだ。

▲リーダーはロッドガイドまで入った。魚体も見えて、あと少し。完全に勝負アリ! と思ったが……。

▲無情にもロッドは一直線に。これには北村も思わず舌を出してしてペロリ。

納竿まで本当にあと少し。時間がない。悔やんでいるヒマもない。北村はすぐさまジグを再投入。すると、再びドスンとヒットした。

チャーマス

デケェぞ!

北村が叫ぶ。だが、今度は相手が違った。とてつもない重量感。そして、もの凄いスピード。しかも、止まらない。スプールはみるみる細っていく。“あの”魚。船長いわく、モンスター。200〜300kgのクロマグロだろう。

そのタイミングで、北村のファイトの様子を見てジグを回収していたバリバススタッフの斎藤にもヒット。ダブルヒットだ。残り30mだったという。

▲「デケェぞ!」北村が叫んだ。もの凄いスピードでラインが出ていき、まったく止まる気配がない。その後方では、北村の様子を見てジグを回収していたスタッフの斎藤にヒット。ダブルヒットだ。

ところが、なんと北村のリールの芯が見えてきてしまった。そしてそのままなす術もなく、500m巻いてあったラインはすべて出されてしまう。

一方の斎藤。とにかく魚の姿が見たい――その一心で慎重にファイトを行い、見事に念願の魚を無事キャッチ。25.5kgのタネトンだった。

この斎藤の魚でタイムアップとなり、北村は残念ながらノーキャッチとなってしまった。百戦錬磨の北村であっても、キハダ・トンジギの標準的なタックルではさすがにモンスターには太刀打ちできないし、釣行時はクロマグロの漁獲枠がなかっただけに、専用のタックルで挑むわけにもいかない。

昨今のクロマグロを取り巻く事情を考えれば致し方ないのだろうが、釣り人としてはもどかしく、難しい問題だ。

帰港後、チャレンジは続けるか? と北村に聞いてみた。

チャーマス

偉い学者の先生が宇宙を解明するような凄く難しい公式を黒板いっぱいに書いてあるのは理解できないけれど、まぁ理解する必要もないのかもしれないけれど、釣りってさ、理解できるのよ。

理解できるんだけど、もっともっとって掘り下げていくと、なんで昔は魚が食べていないお米をエサに使ったのか?

そして、それで魚が釣れるのか? とか、渓流で魚が食べていないはずのミミズをエサに使うのか?

といったように、不思議なんだけど、素朴で単純な疑問がいっぱい出てくるわけ。そうするとさ、『あぁ、釣りには答えがないんだ』って気がつくんだよ。

むしろ、答えを知ろうとすると、ワナにハマる。

いつまで経っても、いくつになっても、何回釣りに行っても、答えにたどり着けない。釣りには再現性がないのだ。

水温、潮色、その流れ、天候、ベイト等、同じ条件というものが一度たりともないのである。

だからこそ、それを知ろうとすればするほど、沼にハマっていく……。

だから、釣りはやめられない、と北村は言う。

チャーマス

今回も、結局答えにはたどり着けなかった。だから、もちろんチャレンジは続けたい。

ただ、体力的にそろそろ限界かな…とは思っている。

とはいっても、チャンスがあったら常に行動。結局、やっぱり釣りに行ってしまうんだな。

長年釣りを続けてきたことによって体の芯にまで染み付いた習慣が、結局抜けないのである。

後日、そんな北村から一通のLINEが届いた。

チャーマス

船長の(撮ってくれた)動画を見てロッドのベントがうねりで一定に保たれていないのがバラシの原因の感じですね! 反省、反省です!

80歳を目前にしてもなお成長する北村。

たとえ明日、世界が終わるとしても今日私はリンゴの木を植える――

チャーマス

釣るまでやめねぇよ!

▲なす術もなくラインを出され、とうとうスプールの芯が見えてきてしまった。

▲結局、ラインはすべて出されてしまった。さすがに相手がデカ過ぎた。4号で勝負できる魚ではない。

▲とにかく魚の姿を見たい、魚をキャッチしたい。スタッフ斎藤はその一心で慎重にファイトする。

▲北村が差し出すネットに無事収まりランディング。

▲斎藤の魚は、見事なタネトン25.5kg(20kgオーバーのビンナガのことをタネトンと呼ぶ)。首都圏から日帰りで、こんなマグロ類が狙える伊豆沖。今後ますます注目され、盛り上がる海域だ。

スタッフ斎藤タックル

タックル詳細
ロッドテンリュウ/
JDF601S-5/6
リールダイワ /
20ソルティガ 10000P
PEライン【バリバス】
アバニ ジギング10×10マックスパワーPE X9 5号 300m
リーダー【バリバス】
アバニ ショックリーダー SMP ナイロン 100lb
ジグスミス/
CB.ムラマサ3S・TS(アバロンタチ※腹夜光)
フックBKK/
レンタス5/0 M

関連動画

取材協力

取材協力

第8寿広丸(静岡県南伊豆手石港)

▲お世話になった第8寿広丸(静岡県南伊豆手石港)の三俣隆徳船長。春は風が吹きやすい時期だが「それに応じてポイントを変えて攻めていきます。どこも実績は十分あります」とのこと。ぜひチャレンジしていただきたい。

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