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ソルトルアー 大川 直

サンライズ・田代誠一郎が語る
玄界灘ヒラマサゲームのいま、そしてこれから(後編)

玄界灘ヒラマサシーンの先頭に立ち、常に新たな道を拓いてきたサンライズ・田代誠一郎。
後編となる今回は、新たな一歩を踏み出した田代が考える、サンライズのヒラマサゲーム、そして玄界灘のヒラマサゲームを紹介する。
開拓者であり挑戦者でもある田代の言葉に耳を傾けてほしい。

▲2023年の2月に就航した「新海Ⅲ」。全長72ft(約22m)、全幅4.5m。
「新海Ⅱ」に比べ、長さが3m、幅が70cm長くなり、より安全、快適な釣りを楽しめるようになった。

――2023年2月、サンライズの船が新しくなりました。
いままで以上に大型になり、安全性や快適性が格段に向上した「新海Ⅲ」。どのような思いで造られたのですか?

玄界灘のヒラマサゲームでは少し荒れ気味の日によく釣れることが多いのが特徴です。
潮波の中を流すことも普通なので、船が揺れることが前提の釣りになってきます。
船体が大きくなることでより安全な航海ができますし、快適さの提供にもつながると考えています。より安全、快適な釣りを楽しめるように、これまで以上の大型船にしたいと思っていましたので、実現できて満足していますね。

▲ベストポイントでのベストタイミング、そしてヒラマサが高活性のときはラフコンディションであることが多い。
大型船のアドバンテージは計り知れない。
▲遊漁船では類まれな広さと快適さを誇る「新海Ⅲ」のキャビン。気のおけない仲間との釣行は最高の時間となるはずだ。

広い船で3、4日間にかけて7~8人で一緒に過ごすと、おのずと一体感も生まれてくると思います。単なる釣りというよりも旅に近いところがあると思いますね。釣れた、やった、デカい、という声はもちろん嬉しいです。でもそれ以上に帰るときに「あ~あ、現実の世界に戻らなければいけないな」という声をもらったりするとすごく嬉しかったりしますね。
 
船の中で生活すること自体が非現実的なことですよね。慣れない人にとって船の生活には不安と緊張もあると思います。でも、楽しかったと言って帰ってもらえることが多いので、いまのところは安心しています。まだ少ししか時間が経っていないので早いかも知れませんが、船を大きくして良かったなあと思っています。お客さんに喜んでいただけていると実感できていますので。

▲最も大切にしていることは? との質問に「安全」と即答した田代。土台が万全だからこそアングラーは安心して釣りに集中できる。

―常連さんも多いお客さんに喜んでいただけているということは、新艇になったことでよりガイド全体の質も上がっているということだと思います。
田代さんがガイドをするうえで一番大切にしていることは何ですか?

安全です。これを一番に心掛けていますね。釣果よりも何よりも優先しています。
だから失礼を承知で結構厳しく言うこともありますよ。たとえば船の後ろのデッキの外で小用しないでください、とか、シケているときにベッドルームの方に行かないでください、とか。
うるさいな、と思われることがあるかもしれませんが、ケガしたらすぐに帰らなければいけません。
ましてや海に落ちたら釣りどころではありませんからね。

▲ただ釣るだけでは…、という時代になっている。より永く楽しむにはリリースなど、一定のルールが必要不可欠だ。

―黎明期から玄界灘のヒラマサゲームを牽引してきた田代さん。これからのヒラマサゲームをどのように展開していきたいと思っていますか?

玄界灘でヒラマサゲームを楽しませてくれる船はとても多くなっており、敷居が高い釣りではなくなっていると思っています。
反面、フィールドに与えるプレッシャーが増えているとも思いますね。
キャッチした魚に関しては、たとえば食べる分だけ持って帰るとか、一定のルールを作って守っていかなければといけないと思います。
これだけの船がやっているのですから魚が減るのは早いでしょうし、スレてくるのも確かだと思いますからね。

▲キャッチしたら即、ヒラマサの口にホースを突っ込んで放水、蘇生をはかる。
魚のケアには細心の注意を払っている。

リリースするならしっかりケアをして逃がしてあげてほしいと思います。
うちでは可能な限り元気で海に帰ってもらえるように努力してきましたし、これからもやっていきます。
これを多くの船、できれば全船で、みんなの意識としてやっていけたら、と思います。
そうなるための発信は続けていきたいです。
必ずしも自分がベストなことをやっているかは分かりませんが、ベストと思えることを続けていきたいと思っています。
 
タグ&リリースをした魚が採捕されると、リリースした魚はしっかり生きているということが分かります。
そうすればリリースについての発信にも説得力が増してくると思います。
そんなにすぐ大きくなるんだったら逃がしておけば20kgを超えちゃうな、なんてことも知ってもらえると嬉しいです。
そうやって1匹1匹を大事にしていきたいですよね。

▲データを取って、タグを打ち込みリリース。
いまは興味が優先というタグ&リリースだが、将来はヒラマサの生態の把握に大きく貢献するかもしれない。

一例ですが、玄界灘の生月島近くでタグ&リリースしたヒラマサが韓国の済州島で採捕されことがあります。
これには感慨深いものがありました。
海はつながっているんだから当たり前といえばそれまでですけど、おそらく中国とかにも行っていると思います。
単純に凄いなあと思いましたね。自分がリリースした魚がどこまで行っているのか。タグ&リリースに関しては、いまはこの興味が大きいですね。
夢があるなあ、と思っています。いろいろ知りたくて勝手にやっている、という感じですけどね(笑)。
でも、その結果が何かにつながるかも知れないという期待もあります。
 
最近はお客さんも船長たちもリリースに対する意識はとても高いと思います。
船長も若い人がすごく増えていますし。20代半ばから30代の船長も多く、その世代はリリースに抵抗がない人が多い。とてもいいことかなと思いますね。

▲大型ヒラマサをキャッチすると嬉しさ半分、申し訳なさ半分という表情を見せる田代。
どちらかといえば10kg以下のほうが本気で喜んでいるように見える。

―リリースの定着傾向にも見られるように、成熟の度合いをより深めている玄界灘のヒラマサゲーム。
2023年の春は大型のキャッチにも湧いています。反面で20kgを超えなければ胸を張れない、という風潮もあるように思います。

20kgオーバー、30kgオーバーがそこかしこでキャッチされています。
実際に釣ったことがある人は少ないとは思いますけど、SNSなどで見慣れてしまっている感があるのも確かです。
だからといって、自分が釣った魚が8kg、10kgくらいだったときに「なんだ、こんなサイズか」という感じにはなってほしくないですね。
8kgでも10kgでも立派なヒラマサじゃないですか。
釣果がすべてではない。そういった意識を大切にしてほしい、ということを伝えていければ嬉しいですね。
 
だからこそ、うちでは旅なんです。自分自身、釣ったヒラマサの大きさが何kgでも楽しい。
釣果だけではない部分も含めて楽しんでほしいな、と思っています。
もちろん全然、釣れなかったらちょっと悲しいですけどね。こうしたことが一番大事かな、と考えています。

▲1日の釣りが終わり、船が走り出すと一末の寂しさが訪れる。いつまでもヒラマサゲームを楽しむためには、我々、釣り人の努力も大切な時代になっている。

―ヒラマサゲームを取り巻くすべてを丸ごと楽しんでほしいということでしょうか?

1匹の価値を高める、と言葉に出すのは簡単です。
でも、これは個々のアングラー次第、それぞれの価値観によって異なってくることでもあります。
どうしても大型を求めてしまうのもしょうがない。でも、いつまでもこの釣りを楽しんでいだきたたいし、自分も楽しみたいです
なぜなら自分がヒラマサという魚に出会って、これほど充実した日々を過ごせるようになるとは、この釣りをスタートした17、18年前には思ってもいなかったからです。
 
ヒラマサを追い続けてきただけで、多くのお客さんと知り合えました。
あらためて凄い魚だなと思います。それぞれのお客さんがヒラマサと出会って、それぞれに受けるインパクトは異なると思います。
ヒラマサと付き合っていくにしたがって趣味の世界が変わるし、もしかしたら仕事になってしまう人もいるかもしれません。
そんな素晴らしい力を持ったヒラマサという魚をみんなで大事にして、みんなで永く楽しんでいけるといいですよね。


写真・文/大川 直 

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