PE5号以上のラインを大型スピニングリールにどのように巻き込むのが正解?答えはひとつではない。だがラインにダメージを与えず巻き込むことが重要、という点は共通している。お客さんのリールにラインを巻き続けて25年以上、小平商店の小平伯穂さんが試行錯誤のすえに辿りついた方法を紹介しよう。
ラインの巻き方や設定はアングラー、販売店によって異なります。今回は小平商店 小平さんのケースを1つの事例としてご紹介させていただきます。
ラインにダメージを与えずに巻き込むことの重要性を理解したい
▲お客さんのラインを巻いて25年以上という小平商店の小平伯穂さん。小平商店はオフショアのソルトウォータータックルをメインに展開するプロショップ。自身もヒラマサ、マグロ、GT、シーバスなどを季節に応じて追いかけ続けている。
「8000番以上の大型スピニングリールにPE5号以上のラインを巻き込む場合の正しい方法は?」と聞かれて、「これが正解です!」と胸を張れるアングラーはそう多くはないだろう。自分はいつもこうやっているけれど…、と口にする方が大半ではないだろうか?
いつもショップに任せています、という方はある意味正解。実はそれだけラインにダメージを与えない巻き方を正しく行うことは簡単ではない。より正確には、しっかりした設備を整えなければ、ラインにダメージを与えずに巻き込むことは難しい、というのが現実だ。
ここではオフショアソルトゲームをメインスタイルとするショップ、小平商店の小平伯穂さんの糸巻き方法を、いくつかの注意ポイントを合わせて紹介する。ぜひ、ご自身のやり方として参考にしていただくと同時に、より確実な糸巻きを望むのであれば専門家にゆだねることの重要性を理解していただければ幸いだ。
ひとつでも欠かすことが出来ない、糸巻きのための道具と材料
まずは、必要な道具からチェックしていこう。
用意するもの | 詳細 |
---|---|
IK-500 Ver.2(魚矢×スタジオ・オーシャンマーク) | ラインを傷めることなく、安定したテンションをかける役目をする。作業台には万力で固定。 |
高速リサイクラー2.0(第一精工) | ラインスプールをセットするためと、IK-500 Ver.2と併用することでラインに一定のテンションを与える役目を担う。 |
作業台(小平さんの自作) | 作業しやすい高さを確保し、各道具の確実なセッティングを可能にする。 |
ハサミ | ラインをカットするために必須。 |
テープ | セロテープ、ビニールテープなど。スプールに結んだラインが滑って空回りしないように固定する。 |
ラインコーティング剤 | 摩擦係数を減らし、ライントラブル、ガイドに掛かる負担を減少させる。PEにシュッ!、PEにシュッ!プロ仕様(ともにバリバス)など。 |
ライン | 今回はクロマグロ、大型ヒラマサ、GTなどを想定し、アバニ キャスティングPE Si-X10号300m(バリバス)を使用。 |
リール | 今回はソルティガ20000-H(ダイワ)を使用。 |
以上のひとつでも欠けてしまうとダメージを与えることなく、適切にラインをリールに巻き込むことはできない。
▲ラインにダメージを与えることなく巻くため、とりわけ重要な役割を果たすIK-500 Ver.2。この価格と自作の必要性がある作業台、十分なスペースの確保などが個人で理想的な糸巻きをするためのハードルかも知れない。
▲適正にセットさえできればあとはただ巻くだけ。決して難しい作業ではない。
糸巻きの実際の工程とそれぞれに対する注意点
以下、糸巻きの実際の工程とそれぞれに対する注意点を、時系列に紹介していこう。
1.リールのラインキャパシティ確認と使用するラインの用意
リールのスプールに表記されている、もしくは取り扱い説明書などに記載されているラインキャパシティ(号数、メートル表記)を確認し、その表記に応じたラインを用意する。今回はソルティガ20000-Hとアバニ キャスティングPE Si-x 10号300mを準備。
▲使用するラインをどのくらい巻き込むことができるかを確認、ラインを用意することがスタートだ。
2.各道具、ラインをセットする
リールを作業台に、ラインのスプールを高速リサイクラーにセットする。ラインのスプールから先端を引き出し、IK-500 ver.2の上部のガイドのみに通し(テンションを与えない状態で)、ベールを起こしてからリールのスプールに結ぶ。
▲高速リサイクラー、IK-500 ver.2の順番でラインをセットしていく。
スプールにラインを結ぶためのノットはユニノットです。スプールに4回巻き付けてから4回絡げて締め込みます。ラインの号数によってノットを変えることはありません。しっかり締め込んでから余分をハサミでカット。テープで留めます。
▲ユニノットでしっかりスプールにラインを結び、テープで留めることが大切だ。
リールのスプールにラインを結んだら、手順通りにIk-500 ver.2にラインをセットし、高速リサイクラーとIk-500 ver.2のテンションを調節する。すべては感覚、とは小平さんだが今回は約1.5kgのテンションをかけた。
「1.5kgでは弱すぎるのでは?テンションが弱くて喰いこみ切れが起きるのでは?」と不安視する方がいるかもしれないが、実際には必要十分なテンションを生み出す数値。12号のPEラインでも実際には2~3kg、最大でも5kg程度までが許容値。リールのドラグは巻き込んでいるときにラインが滑らない程度にセット。滑るようだったら増し締めする。
▲IK-500 ver.2に手順通りにラインをセットしテンションを調整する。難しくはないがセットする手順の間違いは許されない。
実際に測ることはない、という小平さんだが、測ってみたテンションの値は約1.5kgだった。最大ドラグ力に比して低すぎると思う方がいるかも知れないが、ドラグ力は引き出される力に対しての負荷であって、リールに巻き込む力とは異なるので注意が必要だ。
3.ラインを巻き込んでいく
ラインをリールに巻き込んでいく。巻くスピードはとくに気にしていない、と小平さん。ファイトと同様に最初から飛ばすと途中でバテてしまうので要注意。常に一定のテンションが掛かっているので等速で巻く必要もない。止まってもテンションは抜けないので問題はない。
▲約1.5kgのテンションであっても実際にはかなりの重労働。リールの向きは作業スペースの関係で上向きだが、実際は上向きでも下向きでも問題はない。
最初のうちはスプール軸が細いこともあって巻きやすいのでテンションは強め。自分も元気ですしね(笑)。
スプールに巻き込まれたラインが増えてスプール軸が太くなっていくと必然的に糸巻テンションが強くなります。そこで強まっていくテンションに対応するため、少しテンションを緩めます。
強いテンションを掛けて巻き続けることはリールのギアへのダメージも懸念されますし、疲れてきて強いテンションで巻くことができなくなる、ということも理由ですけどね。
4.ラインのテーパーを確認、調整する
少し巻き込んでからスプールに巻き込まれたラインの形状を確認する。理想形はスプールの軸に平行に巻き込まれている状態。山型、逆三角形型になっているとキャストトラブルの原因になるため、綺麗な形状に巻き込めるよう、ワッシャーを使って調整する。
▲今回のスタート時は少し山形になってしまった。このまま巻き続けても形状は修正されないので調整が必要だ。
山型になっている場合には、ワッシャーを抜きます。反対に逆三角形型になっているときはワッシャーを加えて調整します。リールを購入したときに付属しているワッシャーは、厚いものと薄いものが用意されています。
薄いものから実際にハメてみて、治らなければ厚いものに交換する、という手順が一般的ですね。
▲理想形に近づけるためにワッシャーをセットして調整する。ワッシャーはリール購入時に付属している。
5.コーティング剤をスプレーする
ラインを巻き込む途中で、100mごとを目安に段階的にコーティング剤をスプレーする。小平さんは「PEにシュッ!プロ仕様」を使用。
▲巻き終わってから表面にたっぷり吹き、時間をおけば浸透はするが、こまめにスプレーしたほうが確実だ。
6.完成形について
▲理想的な形状に巻き込まれたライン。コーティングの剥がれ、強度劣化もなく、大型魚とのファイトにも不安なく挑める。
スプールに巻き込まれたラインがスプール軸に対して平行に、真っすぐになっている状態に仕上げる。巻き込む量はテーパー状になっているスプールエッジの内側のところで面一になるくらいを目安にする。多少の増減は好みに応じても大丈夫だが、スプールエッジの外側の高さを超えるくらいに多すぎるとキャストトラブルの原因となる。少なければ飛距離が落ちてしまうので注意する。
▲各所のセッティングに相応の経験が求められ、意外に重労働でもあるが、手順をしっかり踏めば難しくはない糸巻き作業。
必ず守りたい3つの重要事項
以上、ダメージを与えることなく、PE5号以上のラインを大型スピニングリールに巻き込むための方法、その基本とチェックポイントを紹介した。まとめとして必ず守りたい3つの重要ポイントを小平さんに指摘してもらったので参考にしていただきたい。
スプールにしっかりテープで固定すること。
結び目をスプール軸に固定していないと、ライン全体が一体となってスプールのなかで空回りすることがある。これでは釣りが成立しなくなってしまう。
▲テープの素材はなんでもいい、と小平さん。しっかり留まることが重要だ。
ゆるゆるに巻き込んでいると起きがちな現象ですが、しっかりテンションを掛けて巻き込んでいても起きます。
たとえば寒い時期に暖房のきいた車内からタックルを出してドラグ値を測ろうとしてラインを引くと空転してしまうことがあります。温度差でスプールがわずかに縮むことが原因ではないか?と思いますが、いずれにしろ釣りになりません。
簡単ではあるが重要な工程が、ユニノット部をテープでスプールに留めておく、という作業だ。テープを使わない固定方法もあるかもしれないが、小平さんの長年の経験から、様々な状況を鑑みて空転を抑えるのはテープを用いるのが簡単で確実ということだ。
適正なテンションをかけて巻き込むこと。
▲適正なテンション、ということが大切。緩くても、締めすぎてもトラブルの原因となる。
テンションの掛け過ぎはラインの劣化に繋がるが、ある程度はテンションを掛けて巻かないと表示通りのラインを巻き込むことができない。ラインの種類によって太さに多少のバラツキはあるものの、表示通りのラインが巻き込めない、しかも50mも残して巻き込めないという場合は、テンションが緩すぎることが主な原因と考えられる。
ラインコーティング剤を適宜スプレーしながら巻き込むこと。
▲小平さん使用はPEにシュッ!プロ仕様。ノーマルタイプに比較しコーティング保持時間が3倍にアップ。撥水効果もプラスされている。
摩擦係数を減らし、ライントラブルを防止、ロッドのガイドやリールのラインローラーに掛かる負担を減少させるためにも、ぜひ忘れずに行いたい。